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ホウジャク [昆虫]

先日の夕方、帰宅途中に近所の家の前で撮影しました。
この季節になると決まって花の周りを舞うスズメガの仲間のホウジャク(蜂雀)です。
(この映像はおそらくホシホウジャク)

houjaku.JPG

その昔、昆虫少年だった私は、友人と一緒によく虫網で捕ったものです。
でも、なぜ捕らえたのか、また、そのあとどうしたのか、(逃がしたのか?虫かごに入れたまま死なせてしまったのか? )なぜかよく覚えていません。
もちろん今は、見るだけです。
まるでハチドリのように高速で羽ばたいて、花の蜜を吸う。
あまりにも美しく愛らしいその姿に今も癒されます。
今回のものは、近づいても逃げようとはせず、接写しようとカメラをうんと近づけたら、逃げるどころか、さらに花の奥に潜って出てこなくなりました。
私はもっと見ていたかったのですが、オトナの事情により、撮影を済ませて帰宅しました。

このホウジャクについては、11年前の出来事を書き留めたものがあるので、見てください。

〈蛾一匹〉

帰りの途中、高田馬場の駅前のいつも寄る「ファーストキッチン」でブレンド珈琲を飲んでいると、客たちの頭上を虫が一匹わりと激しく舞っているのが目に入った。
今日の私は店の端っこの奥まった位置にあるカウンターに座っていたので、若い女性達が、
「なに?ゴキブリ?ハチ?ガ?」
と奇声を発したことで、私が店の中央付近を振り向いて気づいた。
もちろん昆虫少年だった私には見た瞬間に「ホウジャク(スズメガの仲間)」と判った。
大きさから言って「クロホウジャク」だろう。
客たちは「天井狭し」と飛び回る得体の知れない虫が気になるらしく、
「ハチだったらいやだなあ」
「刺されるしなあ」
などと呟いていた。
私はにわかに取り返しのつかない職業選択に対する悔恨を覚えた。
むろん昆虫少年が必ずしも昆虫学者になるわけでもなかろうが、昆虫写真家や昆虫画家、または昆虫図鑑の編集者など、いろいろあったと思う。
しかも昆虫に対する入れ込み度、精通度という点で少数派であるということを思えば、かなり勿体無かった。
もしここに虫網があれば、私が虫捕りの腕を発揮してみせて手で掴んでは、周りの人たちに得意げにこう言うだろう。
「これはホウジャクというスズメガの一種で刺さないから安心してください」

そんな妄想を描いているうちに、ホウジャクもそろそろ疲れてきたのか、壁の小さな棚につかまって休み始めた。
するとそこへ女性店員が殺虫剤のようなものを持ってきて、休んでいるホウジャクに向けて吹きかけた。
しかし動じない。
今度は男性店員が背が高いという理由だろうが代わって同じものを吹きかけた。
さすがのホウジャクもたまらず飛び立って店の別の方へ移動した。
いったん店員たちも諦めた様子だったが、客もこれからずっと居ることだし、このままにしておくわけがない。
姿が見えなくなったが、どうやらホウジャクは私の席の近くの死角になっている壁の上部に来たらしい。
「あっ、これってもしかして私の妄想が現実になるということなのかな」
と期待を込めて悟った私は、すぐに席を立って見えない壁の裏側へ回ってホウジャクを発見した。
私は早速もとの席にあった椅子を持ってきて靴を脱いで登ろうと試みた。
それを見ていた店員たちは、どうやら叩き潰そうと思っていたらしく手にお盆を持って準備していたが、私に任せた。
一回目は椅子から落ちた。
気を取り直してもう一度。
今度は成功して左手で疲れ切ったホウジャクを捕まえた。
私が椅子から降りて店員たちと目を合わせると、店員たちは軽く会釈をして、
「どうもありがとうございます」
と半ば事務的に小声で言った。
私は余計だと思いつつも、
「これはホウジャクという蛾です」
「大丈夫です、刺しませんから」
と早口で言ったのだが、店員たちはほとんど関心がないと見えて、
「あ、ハイ」
と軽く反応しただけでこの捕物は終わった。

その後私はいったん店の外に出て、ホウジャクを放したが、また店に入って来ようとする動きを見せたので、念じて遠くへ追い立てた。
「何だよ、今ごろになって」
「十一月の中旬になってなぜ出て来るんだ」
「こんなたくさん人のいる所に入ってきたら、殺されるだけだろうが」
「繁殖はどうした、済んだのか?」
などとホウジャクに語りかけ、かつて少年時代に虫たちをむやみに殺した罪を償った気分に浸っていた。
左手の内側を見ると鱗粉がついていた。
だが私はそれを拭き取らずに風に任せ、やがて昆虫少年の妄想と共に消え失せた。

平成十七年十一月十六日







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