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変な生き物 [謎]

この地球には奇妙な生物がいるもので、およそ人間の生活様式からは考えられないような形態や生態の生物と稀に遭遇します。

私が大学を出てすぐ勤めた私立高校は、校長も管理職の人も古い日本人で、「俸給」「検閲」「逐電」などの死語が平気で飛び交う旧態依然とした組織でした。
そうなると、当然のことながら建物や設備や道具も古いままで、昭和が終わり平成に入っても教室に冷房はなく、職員室にある唯一の冷房装置は、昭和40年前後に普及した、タンクに張ってある水の気化熱を奪う方式の原始的なものでした。
話の主役の場はその職員室なのですが、私はそこでは床が三越本店張りの木製タイルであることを誇りに思い、冷房にしても、むしろ最新型のものよりも空気が乾燥しなくて心地よく健康的だと、良い方に解釈して過ごしたものです。
そして問題は暖房器具です。
平成元年度まではダルマストーブだったのです。

その平成元年度の冬のこと、職員室で空き時間を過ごしていた私は、少し退屈し、寒かったので、真ん中の通路に置いてあるダルマストーブの前に立って、両手を突き出して当たっていました。
ダルマストーブの上には真鍮製のヤカンが載せてあり、中に水を入れて沸騰させて室内の湿気を保つと同時に、沸かしたお湯でお茶を入れて飲んだりもしていました。

湯が沸騰して注ぎ口から勢いよく湯気を出すヤカンをなんとなく見つめていると、なにやら小さなゴミのようなものが表面をすばやく移動するではありませんか。
はじめ我が目を疑い、今度は目を凝らして正体を突き止めようと試みました。
しかし、あまりにも動きがすばやく小さいのでなかなか確認できません。
そうしている間にも、それが生き物なのか、それとも高温状態に起きる化学的現象なのか悩んでいました。
「こんな熱い所に生物がいるわけがない」
「いや、どう見てもこれは生物の一種だ」
私はいつになく執念深く観察しました。
なにぶん、一秒と制止することなく別の所へ移動し、視界から消えてしまうものですから、凝視を許さないのです。
それでも、形が左右対称だということはハッキリ見て取れたので、ゴミではないと確信しました。

その得体の知れない生物は、毛糸の屑のような形態で、大きさは直径1mmくらい、色は青みがかったグレー。
もちろんそんな生物は本でも見たことがありませんし、話にも聞いたことがありません。

hennna2.jpg
【パステルで描いてみました。なにぶん20年以上前のことなので、正確ではありません。】

私は微かな希望を抱いて、近くに坐っている理科の先生に声をかけました。
「このヤカンの上にいるのは虫ですかねぇ」
「こんな熱い所に生物なんているんですか?」
すると、その理科の先生は面倒くさそうに、顔だけこちらに向けて、腰を上げませんでした。
今度は私が執拗にヤカンを指して、
「これ、これですよ」
と言うと、理科の先生はようやく椅子から腰を上げて、ダルマストーブに近づき、ほとんど見た振りをしただけで、素早く席へ戻り、
「だって、100度の熱湯の中に棲んでいるバクテリアだっているくらいですから」
と無愛想に呟きました。
もっとも、その手のバクテリアなら、私だってどこかで聞いたことがあります。
しかし、それは常時100度の熱湯という環境なのですから、それほど不思議ではありません。

それに比べると、この生き物は、
「熱いヤカンがないときはどこで何をしているのか?」
という疑問が残ります。
もしかすると、「真鍮(黄銅:銅6割,亜鉛4割の合金)という金属に何らか関係がある生き物」かもしれません。

誰か謎を解き明かしてくれる人はいないでしょうか?
と言ったところで、まず、いないでしょう。
「そんなもの自分で突き止めろ!」
という声が聞こえてきそうです。
もちろん、真鍮製のヤカンやダルマストーブ、それに木製タイルの床など、条件を揃えるのは至難ですし、かりに出来たとしても、たとえ突き止めたとしても、1銭にもなりませんし、役に立つわけではないので、誰も関心を持たないでしょう。
所詮、こういう存在は、話題とともに闇から闇へと葬り去られる宿命なのでしょうか?
私自身と重なるようで、身につまされます。


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